【報告】みずほ、三菱UFJ、三井住友、農林中金の回答及び対応について

昨年11月のCOP24直前、世界的に化石燃料企業からの投融資撤退(ダイベストメント)の機運が加速化する中、石炭火力を考える会および気候ネットワークと地域団体の連名で、東京湾岸の石炭火力計画の親会社との主要取引先である金融機関(会社四季報による)に対して下記のとおり「石炭火力発電事業への対処方針に関するお願いとご質問」を送付しました。この結果をご報告します。

【横須賀】3大銀行に横須賀火力発電所新1・2号機への融資について質問を送付(2018/11/20)

【千葉】3大銀行に(仮称)蘇我火力発電所への融資について質問を送付(2018/11/21)

【袖ケ浦】3大銀行+農林中金に千葉袖ケ浦火力発電所(仮)への融資について質問を送付(2018/11/22)

質問は、みずほ、三菱UFL、三井住友のいわゆる「3大メガバンク」が、昨年5月から6月にかけて石炭火力発電事業に対する融資の方針を示していますが、地域住民にとって最も大事なポイントは、近隣で計画されている計画に対して融資がなされるのか、融資検討にあたっての詳細だという点からの個別の計画案件に対する質問でした。

追加:2019年2月18日に赤字部分を加筆しました。

全社ゼロ回答だが、市民とのコミュニケーションで明確な差

各社の対応は下表のとおりです。4社とも具体的な回答には踏み込んで答えていただけなかったものの、三井住友銀行と農林中央金庫とは、担当者の方と気候ネットワークスタッフが面会して方針などを改めて確認させてもらうことができました。

みずほ 三菱UFJ 三井住友 農林中金
質問に対する回答
返信 ☓ → ◯
面会

 

各社の具体的な対応は以下のとおりです。

みずほ銀行

メールにて、「個別案件の内容/情報/対応方針につきましては、お答えすることができません。しかしながら、弊行はエクエーター原則の採択行として、融資検討に当りましては、厳密にエクエーター原則を適用遵守して参ります。」との回答あり。

三菱UFJ銀行

質問状に対しての回答は一切なし。

*この記事の掲載後、2019年2月12日付で郵送にて返信をいただきました。
・MUFGでは、事業を通じた環境・社会課題解決への貢献の基本方針として「MUFG環境方針」、「MUFG人権方針」を定め、これらの基本方針のもとで、環境・社会配慮を実現するための枠組みとして、「MUFG環境・社会ポリシーフレームワーク」を制定しています。パリ協定の合意事項達成に向けた国際的な取り組みに賛同する立場から、温室効果ガス排出削減に繋がる先進的な高効率発電技術を指示するとともに、石炭火力発電に係る新規与信採り上げに際しては、OECD公的輸出信用アレンジメントなどの国際的ガイドラインを参考に、石炭火力発電を巡る各国ならびに国際的状況を十分認識した上で、ファイナンスの可否を慎重に検討することとしています。

・また三菱UFJ銀行は、赤道原則を採択し、大規模プロジェクトが自然環境や地域社会に及ぼす負の影響を回避または緩和するため、お客さまの環境・社会リスク管理をサポートしています。

・尚、誠に申し訳ありませんが、守秘義務の寒天から個別の案件に対する回答は差し控えさせていただきます。

三井住友銀行(SMBC)

電話にて担当者から連絡あり。個別の案件に対しては回答できないが、方針に関して対話の場を設けることは可能。2018年12月19日に気候ネットワークスタッフ2名が面会。その時の話は以下のとおり。

 <内容>

  • 3メガバンクの中では唯一SMBCが明確に高効率のものに限定することを表現している。これに対してはNGOも評価している。
  • 方針は、「『脱石炭』とまではいかず、政府の方針であるエネルギー基本計画に従った。ただ、方針はこれがゴールでなく、今後も様々な観点を勘案して検討していく。」とのことだった。
  • 途上国支援については、「電源が通ることによって恩恵を受ける部分もあり、支援を必要としているところがある」との認識。環境NGOとしては、途上国側でも電源不足でもなく、必要性のない地域で計画があるため、そこは認識に違いがあることが明らかになった。
  • 日本に関しては、「石炭を必要としている顧客もいる現実をふまえた対応をしていく」ことになるとのことだった。
  • 今後は、「TCFDに即して見ていくことになるとのこと。全体のポートフォリオで石炭の位置づけもはかると。規制動向についても今後注視しつつ、石炭の位置づけを検討していきたい」とのことだった。
農林中央金庫

電話にて担当者から連絡あり。個別の案件に対しては回答できないが、方針に関して対話の場を設けることは可能。2018年12月20日に気候ネットワークスタッフ4名が面会。その時の話は以下のとおり。

 <内容>

  • メガバンクがセクター方針を出す中で、まだ農林中金としては出していない。赤道原則に則ってプロジェクトファイナンスの審査もすることになる。
  • フェアファイナンスに関しては、農林中金の評価が最も伸び率が高いことを意識しているとのことだった。
  • 農林中金からはバリューレポートについて説明があった。
  • プロジェクトファイナンスについては赤道原則の開示要件にしたがって、赤道原則の実施プロセスや実績について開示する。審査にあたっては「代替があるのか」ふくめて慎重に検討。
  • セクター方針を今後示す場合も、一つの文章が大きな影響力を持つので慎重にならざるをえない。

金融機関の評価

1.国の方針に逆らえない!? 国への忖度と世界の潮流との板挟み?

2018年に発表されているそれぞれの方針をみると、三菱UFJ銀行は「石炭火力に関するファイナンスを慎重に検討する」、三井住友銀行は「石炭火力発電所に対する融資方針をより厳格化し、新規融資は国や地域を問わず超々臨界(※蒸気圧 240bar 超かつ蒸気温 593℃以上。または、CO2 排出量が 750g-CO2/kWh 未満) 及びそれ以上の高効率の案件に融資を限定」、みずほ銀行は「石炭火力向け投融資について厳しく審査する」というものです。超超臨界(USC)以上と融資を限定しているのは三井住友銀行だけです。「限定」は一歩前進だと言えますが、現状の計画に照らせば、大型火力発電所すべてがUSCなので(ただし750g-CO2/kWhを超える排出係数の計画はある)、これらの方針で現在の石炭火力計画が止められるという要件になっていないのです。

これについては、国が「石炭ば重要なベースロード電源」だとし、現在最良とされる技術の新設を推進する状況下では、それを上回る厳しい方針を出せなかったとも考えられます。

しかし、国際社会の中では、石炭火力はどんなに高効率であってもCO2排出が大きいために、いかなる石炭も脱却する方向で、ダイベストメントや「脱石炭」の方向性が大きくなっています。日本の金融機関は、国の政策が足かせとなり、こうした方向性の強化が困難なのだと考えられます。

現状の国の方針が「パリ協定」に逆行するような状況であることを鑑みれば、金融機関が国際社会に合わせて「脱石炭」に踏み込んだ方針を出すことこそが期待されます。

2.急変する状況にどう対応するか?

今回、銀行への質問状を送付した後に、千葉市蘇我の計画(中国電力・JFEスチール)と袖ケ浦市の計画(東京ガス・九州電力・出光興産)が立て続けに中止となりました。報道ベースでは、東京ガスが「資金調達のめどはついていた(2019/2/4/電気新聞)」とコメントしていることから、当該プロジェクトに対しての金融機関からの資金調達はめどをつけていたことが読み取れます。中止の決断はこの最近の石炭火力を取り巻く状況の急激な変化があると思われます。カーボンプライシングや規制強化など将来予測が困難であり、石炭価格も高止まりし、地元住民からの評判や裁判のリスクなども企業にとっては大きなリスクになっていることからの判断だったのでしょう。石炭火力を取り巻く状況は、このようにこの1年だけでも急激な変化の中にあります。

「パリ協定」に基づく目標は「1.5℃から2℃の上昇」に留めることとされていますが、昨年のIPCC「1.5℃特別報告書」を受けて、目標達成には極めて厳しい状況にある上で、それでも「2℃目標」ではなく「1.5℃目標」を目指さなければ、気候変動の甚大なリスクは避けられないとの認識が深まっているのです。石炭が市場から閉め出される状況は、今後ますます高まっていくと思いますし、それは金融機関にとっても座礁資産になるリスクをかかえていることにほかなりません。この点でも早期に方針を強化する判断を期待したいと思います。

3.環境NGO・住民との積極的コミュニケーションは社会課題解決に不可欠

今回、市民社会とのコミュニケーションを重視して、2社が気候ネットワークとの面会に応じてくださいました。一方で、1社はメールのみの回答にとどまり、1社は回答も返していただけませんでした。

気候変動問題の解決には、劇的なパラダイムシフトが求められています。社会的に情報開示を積極的に行い、市民社会とのコミュニケーションをとらなければ、誤解や不信感の増幅につながることにもなりかねません。逆にしっかりとコミュニケーションをとれば社会的信頼にもつながります。気候変動対策をめぐる国内外の情勢をウォッチし続けるNGOや地域社会の住民を含むステークホルダーとのコミュニケーションは、持続可能な社会の構築や、世界が目指す課題解決のために、最も重視されていることであり、金融機関にとっても大事な視点ではないでしょうか。

積極的かつ継続的なコミュニケーションを今後も求めていきたいと思います。

 

参考リンク)メガバンクはいつまで石炭に投資するのか?