【横須賀】「環境基本計画」及び「地球温暖化対策実行計画」の策定に対する意見

横須賀火力発電所建設を考える会では、横須賀市の「環境基本計画」及び「地球温暖化対策実行計画」の策定に対しての意見を以下のとおり提出いたしました。

はじめに

2015年に合意された「パリ協定」は、世界の平均気温上昇が工業化前と比較して「2度」に達すれば、異常気象、海洋システムへの高いリスク、熱帯感染症の拡大、農作物生産の減少などによる深刻な被害が生じる可能性が高まることから、「2度を十分に下回る水準に抑制し、できれば1・5度未満にする」こと、そのために21世紀後半には温室効果ガス排出量を実質ゼロにするという目標を決めました。そしてさらに、パリ協定の要請を受けてIPCC(気候変動に関する政府間パネル)は、2018年10月に「1・5℃特別報告書」を出しました。

今回の「(仮称)横須賀市新環境基本計画」及び「(仮称)横須賀市新地球温暖化対策実行計画」策定は、「パリ協定」および「1・5℃特別報告」がだされた後の初めての計画策定であり、「脱石炭」という世界の大きな流れに逆行して横須賀石炭火力発電所の建設がすすめられている中で、横須賀市がどのような計画を策定しようとしているのか、市民はもとより全国的にもそして世界からも注目されるものと思われます。

建設中の新横須賀石炭火力発電所から排出される温室効果ガスのCO2は年間726万トンにも及びます。この排出量は市全体の二酸化炭素の排出量年間約187万トンの約4倍、神奈川県全体の約10%にもなる膨大なものです。今後40年以上稼働すると、2060年をこえて温室効果ガスを出し続けることになります。2050年ゼロエミッションとは全く整合しません。 CO2の排出量が電力の消費地で算定されるとは言え、排出されるのは横須賀市内であることを肝に銘ずるべきです。

また、発電所内で消費する電力から算出されるCO2の排出量は約46万5千万トンといわれ、市内全体のCO2排出量の20%以上になります。あまりにも膨大な量であることから発電所からの排出を市の計画に算入しない案が検討されております。これまでは算入しておいた旧発電所の停止によって現行計画のCO2削減目標が達成したと評価しておいて、こんどは新発電所の建設によって増加することになると算入をやめるというのはご都合主義との批判は免れません。算入、不算入を問題にするのではなく、削減を検討すべきです。

国は低効率の石炭火力のフェードアウトを発表しましたが、高効率の石炭火力発電所建設は認めています。そのため横須賀の石炭火力は除外されるものと思われます。しかし、高効率だからと言っても石炭火力は大量の温室効果ガスを発生します。世界は2030年に向けてすべての石炭火力を全廃する方向で動いているのであり、逆行は許されません。

多くの専門家、識者が指摘していますように「温室効果ガス削減は、全人類に課せられた待ったなしの課題」であり、「今後10年で温室効果ガス半減すること」が必要であるという緊迫した事態になっています。

しかも、この課題はこれまでの延長線上(これまでの常識)では達成が難しい課題ですが、必ず達成しなければならない課題です。なぜならば、このまま温室効果ガスの排出をつづければ後戻りできなくなる可能性が高く、気象災害による被害はさらに頻発し、規模も大きくなると予測されており、地球はすでに気候非常事態にあると言えるからです。
化石燃料を燃やし温室効果ガスを排出しているのは私たち人間です。もし、いま、私たちが手をこまねいていたら、地球規模の環境破壊をますます加速させ、取り返しのつかないことになることは明らかです。

若者たちの未来を奪う権利は誰にもありません。「私たちの未来を奪うな」という若者たちの声に耳を傾けることは、大人世代の重大な責務だと思います。

温室効果ガス排出の2050年までの実質ゼロを実現するためには、2030年までの10年の取り組みが重要といわれています。別の言い方をすれば、残された時間は、わずか10年しかないとも言えます。いまほど、私たちの行動が問われているときはありません。

以上の立場から、「(仮称)横須賀市新環境基本計画」及び「(仮称)横須賀市新地球温暖化対策実行計画」の策定に対し、以下の意見を述べます。

(1)計画立案の手法の抜本的改革

パリ協定などが要請している温室効果ガス排出削減に対して、日本政府の姿勢は極めて不十分であり、消極的です。この国の制度(法律)やエネルギー基本計画などの政策のもとでは2050年ゼロエミッションへも2030年脱石炭も実現できないことは明かです。

国や県の計画との整合性の重要性も分かりますが、これに拘泥することなく、市の計画として実現を先延ばしにできない「全人類に課せられた待ったなしの課題」と位置付けを明記し、その立場で計画立案し、国県の計画に反映するよう努力るべきす。気候非常事態の危機感を共有することも重要です。

具体的には、温室効果ガス排出の2050年ゼロエミッションと2030年に40~50%の削減を実現するためには何が必要なのか、どんな法改正が必要か、どんな技術革新が必要か、実現を妨げているものは何か、などを明らかにすべきです。これまでの行政計画のあり方の限界に挑戦するとともに、必要な法改正要求、国や県の計画の見直し、社会システムの変革などの提起を求めます。

決して、石炭火力発電所が既成事実としてそれに合わせた計画となったり、机上のプランに終わらないことを望みます。

(2)気候非常事態宣言と2050年ゼロエミッションの明記

国内でも多くの自治体が「気候非常事態宣言」を出し、2050年までに温室効果ガス排出の実質ゼロに向けて行動し始めています。

事業者も2050年ゼロエミッションへの挑戦を発表したり、国も遅まきながら「気候危機宣言」を出しました。ところが、日本の温暖化対策の目標値は、2030年までに13年比26%削減、2050年までに80%削減です。やっと先日の首相の所信表明で205 0年までの温室効果ガス排出実質ゼロを発表しました。具体化はこれからであっても事態は大きく変わります。

横須賀市でも「気候非常事態宣言」を発し、2050年ゼロエミッションを明記すること。

(3)2030年までに「脱石炭」を明記し、石炭火力発電所建設工事の中止を

横須賀市には石炭火力発電所建設を止める権限はありませんが、建設を既成事実として「聖域化」する必要もありません。実現を先延ばしにできない「全人類に課せられた待ったなしの課題」として2030年までに温室効果ガス排出を40~50%の削減することは不可欠です。そのためには世界の常識となっている2030年までに石炭火力の全廃が最も現実的な選択肢です。横須賀の計画に明記し、工事の中止を求めること。

再エネの代替技術が確立しているいま、石炭に固執することは許されないでしょう。再エネコストも低下しており、経済的にも石炭火力からの撤退がすすんでおり、座礁資産化の懸念も指摘されています。

(4)横須賀の空気をもっときれいに

久里浜の石炭火力発電が稼働すれば、横須賀はじめ三浦半島など地域の環境にどれだけの影響を及ぼすか心配です。特に人体に及ぼすPM2.5の影響評価がされていません。基準値内と言うだけでは排気ガスの影響などが心配されます。オキシダント濃度がまだまだ高く、大気環境の改善が必要です。

また、市立うわまち病院が久里浜に移転する計画が進んでいます。大気汚染により敏感な患者さんが通院することにもなります。大気の基準値が守られればいいと言うだけではすまされません。

(5)再エネ普及に全力を

再エネは地域分散型のエネルギー供給に最適であり、エネルギーの地産地消と言われます。再エネ発電は地域経済にとっても地域でお金が循環するしくみとなり、経済振興に役立ちます。平塚市が海の波を利用しての発電の研究を始めていますが、横須賀市としても自然エネルギーの開発も手掛けるようにすべきです。

(6)省エネ、技術革新の推進

再エネ・省エネは新しい産業を生み出し、雇用を増やします。化石燃料購入のために海外に流出していた資金が国内で活用できます。コロナ禍のあとの経済復興で「グリーン・リカバリー」という考えが必要と言われています。経済活動の再開で今までと同じ経済社会に戻すのではなくて、持続可能でよりよい環境の横須賀をめざす計画にすべきです。

(7)適応策について

温室効果ガスの排出を削減しても直ぐには温暖化はおさまりません。地球温暖化が進むなか、スーパー台風が日本、特に太平洋沿岸にやってくることが大いに予想されます(昨年の台風15号、19号など)。気象災害(豪雨、暴風、高潮など)対策、熱中症対策、漁業被害対策、農業被害対策など抜本的強化は急務です。東京都が発表した高潮浸水想定なども参考にして対策を講ずるべきです。

また、温暖化による海水温上昇に加え、高い温度の排水による海水温のさらなる上昇での漁業への影響はどう考えているのか。

高潮などによる平作川の逆流で久里浜地域一体がどれだけ浸水するが想定しているのか。核燃料工場なども浸水しないか。放射能物質の災害は出ないか。なども明らかにして対策を講ずるべきです。

横須賀火力発電所建設を考える会|「環境基本計画」及び「地球温暖化対策実行計画」の策定に対する意見(PDF)